2023-09-20

マルハニチロ社長・池見 賢の「環境が激変、経営を変えないことのリスクが大きい時代」

池見賢・マルハニチロ社長



魚に含まれるオメガ3は健康にいいと高人気だが

 日本の生産量減少の背景に、日本人が以前ほど魚を食べなくなったという現実がある。

 世界全体では、魚の消費量は増えている。前述のように、世界全体の年間の魚消費(1人当たり)は1980年代時点で11キロだった。それが今では20キロ超えになっている。

 しかるに、かつて水産大国であった日本の消費量は60キロ(1人当たり)あったのが、今は45キロに減少。なぜ、魚の消費が減ってきたのか?

「一方でですね、オメガ3のEPAとかDHAといった魚に多く含まれる不飽和脂肪酸は人気があるんですよね。(健康食品関連の)タブレットの原料として作っていますが、これがボンボン売れます。でも、魚そのものの消費は落ちていると」と池見氏。

〝オメガ3〟とは、オメガ3脂肪酸のことで、EPA(エイコサペンタエン酸)、DHA(ドコサヘキサエン酸)、そしてα―リノレン酸などの不飽和脂肪酸の一種である栄養分を指す。

 EPAやDHAの成分を含むタブレット(錠剤)は飲むが、魚そのものは食べなくなっているということか?


陸上養殖も増えて

「われわれには日本の皆さんに、良質なたんぱく源の魚を提供する責務があります」と池見氏。

 そのための水産資源を確保するのに注力しているのが養殖事業だ。その養殖の中でも今、注目されているのが陸上養殖。養殖はこれまでも海では行われてきたが、海洋汚染や地元との漁業権問題などとも絡んで陸上養殖の取り組みも始まっている。

 水産資源の枯渇から養殖は増える傾向にある。今では日本の水産全体の約24%と4分の1を沿岸部での養殖が占める。

 ただ、その養殖も海洋汚染が進み、漁場が限られる。それに地元漁業関係者の漁業権とも関係してくる。そうした漁業権の制約もなく、海洋と比べて環境負荷が小さい陸上での養殖がクローズアップ。

 この陸上養殖にはそれなりの設備投資が必要になり、稚魚から成魚に育て、出荷するまでには時間がかかる。例えば、マグロを育て出荷するには3年の年月が必要となる。

 単一の漁協(漁業協同組合)で、それだけの資金負担能力を持つ所は少ない。

「ええ、やはり民間と組んで、養殖をどう実現、実行していくかという構図を作っていかないといけない。それで、うまく行っている地域もあります」

 池見氏は、その具体例として、富山県・入善(にゅうぜん)町で、マルハニチロと三菱商事が提携して陸上養殖する『アトランティックサーモン』を挙げる(出資比率は三菱商事51%、マルハニチロ49%)。

 富山湾は、立山連峰からの栄養豊富な水が流れ込む好漁場として知られる。

「富山湾は水が冷たいんですよ。その深層水を町が海面下300メートルの所から汲み上げてくれるんです。養殖サーモンは北欧のノルウェー産が有名ですが、海水温が低い所でやっていますからね。日本でやるには電気代をかけてやらないといけない」

 山形県・遊佐町では、マルハニチロ単独でサクラマスの陸上養殖を手掛け、その他、水産界ではニッスイが鳥取県・米子市でマサバ、また鹿児島・南九州市でバナメイエビの陸上養殖をそれぞれ行っている。

 山口県・長門市では、安藤建設・JR西日本がトラフグの陸上養殖を行うなど、建設会社と鉄道会社が提携しての参入事例もある。

 さらには、カキの陸上養殖が始まるなど、陸上養殖できる魚介類も増えており、水産業の企業化も進みそうだ。

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