2021-04-20

トヨタ自動車・内山田竹志会長が語る”水素の未来と課題”

内山田竹志・トヨタ自動車会長



 ── エネルギーをトータルで考えなければなりませんね。

 内山田 ええ。中国もHVの方がEVよりもCO2は排出していません。中国の電気の電力構成比は石炭火力の割合が大きいからです。一方で欧州は再生可能エネルギーの比率が30%ぐらいになっています。日本は20%弱です。ここをどう考えていくかということです。

 そもそも各国で一番安いエネルギーとは何かというデータがあるのですが、かなりの国で再エネが一番安くなっています。米国や中国がそうで、中国は太陽光発電が一番安い。しかし、実際に発電で使っているのは石炭です。では日本はどうか。一番安いのは石炭になります。

 再エネ(1000kWh当たり)は、英国で四十数㌦に対し、日本は最も安いと言われる石炭でも七十数㌦です。日本の再エネのコストは百数㌦です。これをまず少なくとも石炭より安いところまで下げないといけません。今までは安定供給とコストが日本のエネルギー政策の二大重要ポイントでした。

 しかし、地球温暖化問題は待ったなしです。世界では炭素に値段を付けて、環境税や炭素税を導入する動きが出てきています。また、国境で炭素排出に課税するという動きも考えられます。つまり、カーボンフリーのために多大な努力を払った製品に対し、カーボンフリーではない安い製品が他国から輸入される際、その製品がカーボンをどのぐらい使ってここまで来たかということで課税されるのです。

 そうすると、CO2を出しながら製品を作っている日本の製品は競争力を失ってしまうことになります。そして海外でビジネスをするためには、カーボンフリーでないとビジネスができない環境になってしまいます。

 ── その中で内山田さんは「水素バリューチェーン推進協議会」の共同代表者でもありますが、水素もかなり重要な役割を担うということですか。

 内山田 クルマのゼロエミッション化という以前に、まずはインフラを作り直さなければなりません。水素ステーションですね。社内でもかなり以前から水素がエネルギーとして意味があるのかないのか、ずいぶん議論を重ねました。その結果、意味があるという結論に到達し、FCVを開発したわけです。

 ただ、水素に関しては、水素を作り、運び、使うというところまでを網羅するためには、産業セクターを乗り越えて、全体のバリューチェーンで協力していかないと実現できません。誰かが頑張っているだけでは難しい。そういう背景から水素バリューチェーン推進協議会が設立されました。産業セクターを乗り越え、水素社会を作ろうよと。

 そのためには、水素に関わっている産業だけではなく、それをサポートしてくれるファンディングも必要です。そのため、金融系の企業にも参加いただいています。協議会は水素社会の実現に向けて規制の緩和などを政府に提言していくものになります。


昨年12月7日に設立した、水素社会の実現を推進する「水素バリューチェーン推進協議会」

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