2022-10-27

三村明夫・日本商工会議所会頭の訴え「円安は今の日本にとって好ましくない。経営者は金融正常化に向かう中で混乱に向き合う覚悟を」

三村明夫・日本商工会議所会頭



円安にもかかわらず輸出が増えない理由


 ─ 為替が急速に円安方向に推移しています。円安は中小企業にどのような影響を与えるでしょうか。

 三村 今、大切なことは「円安が進んだから大変だ」と慌てることではありません。過去30年間を振り返ると、日本は物価も賃金も生産性も横ばいが続くという、いわば「停滞の三重苦」が続いてきました。その結果、企業にも消費者にもデフレマインドが染み込んでしまっています。それが先程のコストが上がっても価格に転嫁できない要因に繋がっています。これは非常に根深い問題であり、これを何とかしなければ、多くの中小企業は生きていけません。

 生きていけないという意味は、以前からの構造的な人手不足の中、賃金原資を確保できなければ人手も確保できず、事業活動が続けたくても続けられない、という深刻なものです。足元では人手不足が顕在化していますが、最低賃金は大幅に引き上げられました。さらに物価が上昇すれば生活費も上がり、賃金を上げなければ新たな従業員は雇用できません。

 この2、3年は人員や経費をカットして我慢していた企業が、コロナ禍が小康状態になる中で、回復する需要に対応するために人手が必要と思い始めていますが、賃金を上げなければ人が集まらない。様々な要因が錯綜する中、厳しい状況です。

 ─ 円安に関連して、現在の金融政策についてはどう見ていますか。

 三村 物価上昇を金融引き締めで抑え込もうとすると景気に大きな悪影響を与えかねないため、金利を上げる・上げないといった二者択一での議論は適切ではありません。

 しかし、金利の上げ下げだけが金融政策ではありません。例えば日本銀行が市場と丁寧に対話することも一つの有力な手段ではないでしょうか。一番大切なことは、円安が今の日本経済にとって好ましいのか、好ましくないのかをよく分析して、分かりやすく国民に示すことです。一部の方々は「急激な」円安は好ましくないと言っていますが、変化のスピードだけを議論するのではなく、世界と日本の経済状況、産業構造などを俯瞰して、日本経済全体にとって好ましいのか、好ましくないのかという視点が必要です。

 例えば、今回の円安局面での大きな特徴は、円安にもかかわらず、数量ベースでの輸出はほとんど増えていません。

 これはおそらくサプライチェーンの寸断による部品不足の影響もありますが、かつての円高で日本企業が生産拠点を海外に移転したことによる影響が大きいとみています。日本は残念ながら潜在成長率が0%台です。潜在成長率は資本投入、労働投入、全要素生産性の三つによって決まりますが、国内における資本形成が潜在成長率に与えた寄与度は、この20年間ほぼゼロです。

Pick up注目の記事

Related関連記事

Ranking人気記事