2022-10-27

三村明夫・日本商工会議所会頭の訴え「円安は今の日本にとって好ましくない。経営者は金融正常化に向かう中で混乱に向き合う覚悟を」

三村明夫・日本商工会議所会頭



円安効果の国内還元が見られず


 ─ 国内への投資が進んでこなかったことの影響がこのような形で出ていると。

 三村 実際、国内の生産能力は増えていないのではないかとうのが私の実感です。したがって、円安になっても生産、輸出数量が増えるという効果がない。

 円安は、海外事業収益が円換算で増える効果や輸出額に対する円安効果というのは確かにあるでしょう。しかし、円安でメリットを享受した企業は国内に利益を還元しているのか。

 実際には、賃金や取引価格は引き上げられず、国内での設備投資も少なかったのではないでしょうか。

 従来は、そうした円安効果があったのですが、今回はそれを感じられません。仮に一部の業種や企業が円安で得た利益を抱え込んでいるのであれば日本全体で円安の恩恵を受けることができません。

 そういった意味においても、円安はそうした今の日本の構造から言えば好ましくない、という共通認識が出来上がりつつあるように思います。

 ─ 為替の円安は国力の低下を示しているという声も強くなっています。

 三村 1人当たりGDP(国内総生産)は国の豊かさを示す指標ですが、シンガポールに抜かれ、韓国、台湾にも抜かれようとしています。これは20年間の停滞によるもので、我々は相対的に貧しくなっている。さらに今、円安で円の購買力が落ちています。

 しかし、私はこのような状況をただ嘆くよりも、みんなで危機意識を共有して、この状況をどうやって抜け出すかを考えるべきだと思います。

 コロナ禍や米中対立は世界のグローバリズムを変質させ、日本を巡る様々なリスクを明らかにしました。経済安全保障、医療安全保障、食料安全保障、エネルギー安全保障など、いずれも国の根幹に関わるものです。これらの課題をしっかりと共通認識として捉えて、日本が停滞から抜け出す活力に変えていくべきだと思うのです。

 ─ 反転のバネにすべきだと。

 三村 例えば価格転嫁もその一つです。価格高騰を消費者物価に転嫁して、賃金原資を確保し、賃金をアップする。それでようやく、20年の停滞から抜け出す。そうすると国内マーケットも大きくなりますから、設備投資ができる余裕が出てくるだろうと思います。これがいわば「新しい資本主義」ではないでしょうか。

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