2022-10-28

「2020東京五輪」をどう総括するか?武藤敏郎・元組織委員会事務総長を直撃!

武藤敏郎・東京五輪・パラリンピック組織委員会事務総長



理事が10人増えた経緯


 ─ なぜ暑い時期にやるのかと疑問の声がありました、そういう経緯があったのですね。

 武藤 ええ。世の中ではアメリカのテレビ局・NBCのテレビ放映が理由と言われたりもしました。もちろん、その面もあるとは思いますが、実態はいま申し上げたことなのです。

 ですから、NBCだけを説得しても駄目なのです。プロスポーツ業界とスポンサーを全部説得しないといけないのです。これは簡単にできることではありません。

 ─ これをもっと説明する必要がありましたね。

 武藤 そうですね。さて話が脱線しましたが、オリンピックが商業化したことによって、そこにスポーツビジネスに関心のある人たちが集まることになりました。オリンピックを招致すると、ビジネスになるということになれば、今度は招致の段階で、そういう人たちが関与するようになったのです。

 ─ ビジネスチャンスになるということですね。

 武藤 はい。実際にオリンピックを誘致できれば、ビジネスになる。それはそれでいろいろ問題があると思いますが、スポンサーシップを全くやめるべきかというと、それでは税金でやりますかということになりますね。

 ─ 民間のお金を集めても良いけれども、それを公明正大にやればいいわけですよね。

 武藤 そういうことなのです。そのことをIOCももちろん分かっていて、例えばロビイング活動はやってはいけないという決まりにしました。それまではIOCの委員が開催都市を視察して回ったりすると、接待だらけになっていたからです。

 それはもうやらないということで、改善策は講じてきたのです。しかし今回の贈収賄事件が起こってしまった。高橋治之理事について報道されていることが事実だとすれば、東京2020大会の価値を傷つけることになり、オリンピック・パラリンピックを冒涜するものです。

 本当に慚愧に堪えません。ただ、組織委員会の側に不正なことをした職員は今のところいないと理解しています。私は組織委員会の職員は適切に物事を処理したと信じています。

 ─ こういった人をなぜ理事に選んだかという問題があります。

 武藤 理事の人選は東京オリンピック・パラリンピック組織委員会の会長が評議員会に推薦します。当時は高橋さんのスポーツビジネスに関する経験・知見から理事にと推薦する声がありました。そして最終的に評議員会で決定されました。

 話は違いますが、当時、女性理事の確保が課題でした。はじめは定款上、理事は25人でした。25人だった頃は安倍晋三首相(故人)が女性理事の割合を3割にしなさいと言っていました。今は4割と言っているんですが。それで25人の3割というと7人です。そこで私は7人の女性理事を選ぼうと強く主張しました。その結果、7人になりました。

 ところが、後に25人ではどうにも候補者を理事に収めきれないということで、10人増やして定款上の理事の員数の上限を35人にしましたので、女性理事の人数割合が少なくなってしまいました。その後、橋本聖子会長になってから理事を45人に増やして、女性理事の数も4割にしたのです。 (以下次号)


むとう・としろう

1943年埼玉県生まれ。66年東京大学法学部卒業後、大蔵省(現財務省)入省。2000年6月大蔵事務次官、2001年1月財務事務次官(大蔵事務次官から改称)、03年1月財務省顧問、同年3月日本銀行副総裁、08年大和総研理事長、18年名誉理事。14年1月東京五輪・パラリンピック組織委員会事務総長。

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