2023-08-01

経団連会長・十倉雅和の「民間経済は対話の精神でソリューションを」

十倉雅和・経団連会長




〝分厚い中間層〟を作るには何としてでも経済成長を

 格差が大きくなると、社会不安につながり、経済停滞を招く。

 何と言っても、今、国民の間にあるのは将来への不安、先行きの懸念である。少子化、つまり若い世代が子どもを産まなくなっているのも将来への漠たる不安が最大要因と言っていい。若者の覇気と志はどうか?

 某有力私大の教授が嘆く。

「最近の学生は留学熱がすっかり冷え切ってしまっている。うちの大学の留学制度を活用して海外の大学院へ留学しようというのは、中国や韓国などアジアから来ている学生が中心になっている」

 また、商社の幹部からも、「せっかく商社に入ってきたのに、海外勤務を避けようとする若い世代も少なくない」といった声が聞かれる。

 なぜ、若者の覇気が失われているのか?

「いや、わたしは、若者は割としっかりしていると思いますけどね」と十倉氏は語り、次のように続ける。

「企業に入っても、3年以内に転職する人が、大企業でも30%いるわけですからね。このことは、やはり自分たちのキャリアを真剣に考えている証ですよね。わたしはそう思います」

 十倉氏は、若い世代の奮闘に期待するとしながらも、日本全体の現状を鑑み、また日本再生を図っていく上での基本スタンスとして、次のように語る。

「ただ、日本全体がデフレの30年の間で、やはり内向きになっている面はあると思います。だから、もっと海外に目を見開いてやっていくべきだと」

 十倉氏は〝三位一体改革〟という言葉を使うが、経済の領域だけでなく、「日本は現状のままでは…」と危機感を抱く関係者は少なくない。

 人づくりを担う教育界でも少子化を背景に危機感が漂う。


人づくりの大学内にも危機感が……

 産業界に人材を送り込んできた東京工業大学は東京医科歯科大学と統合し、『東京科学大学(仮称)』として新しい出発をすることを決断(2024年に統合予定。本誌32ページのインタビュー欄を参照)。

 なぜ、工業系の東工大は医学系の東京医科歯科大との統合を決断したのか?

 東工大の益一哉・学長は、「単なるテクノロジーの開拓だけでなく、もっと社会に貢献し、国力の向上にもつながるサイエンスを追求する大学にしていく。東京医科歯科大の医学系のサイエンスとの相乗効果をあげていくということで、東京医科歯科大学さんとも合意しています」と語る。

 何より、益学長の思いは、日本再生を図る上で、海外からも留学生が押し寄せるような〝魅力ある大学づくり〟である。

「日本は〝失われた30年〟と言われますが、産業人が今の状況を招いたとするならば、産業界に人材を送り込む大学にも責任の一端はあります」。

 そうした責任を感じての大学改革であり、東京医科歯科大との統合で新しい大学を創ろうという益氏の決断。

 少子化がこのまま進めば、約800校ある日本の大学の内、約200校は余剰になるという話もささやかれる。そうした状況下で、若い世代にとって魅力のある大学づくりを果たしていかねばならないという関係者の危機感である。

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